歴代キャプテンインタビュー

特別対談Ⅱ

歴代キャプテンインタビュー

(取材:本誌編集長・彦坂淳)

ラグビーというスポーツではキャプテンの存在は別格である。

ひとたび試合が始まれば、監督やコーチの声は届かない。

チームはキャプテンの判断・指示に従わねばならない。

ラグビーのロッカールームは特別な場所である。

試合前は闘志を漲らせワンチームになるための聖域であり、試合後はすべてを洗い流し敵味方のないノーサイドの空間になる。

ロッカールームに集まった5人のキャプテン達。彼らがつなぐ特別な想いとは

先輩が後輩にすごく優しくて、気軽に話せて信頼関係を築きやすい雰囲気にしてくれたことに感謝しています。

彦坂:50周年記念誌のイチオシ企画が「歴代キャプテン対談」です(笑)。そこで、現役の中野君からさかのぼって5人のキャプテン達に集まってもらいました。これから対談を始めますが、最初に「横ラグの思い出・印象」を教えてください。

北村:谷本さん(編集部注:ジュニア副責任者兼S&C委員長)にしごかれました(笑)。S&C*1 でフィットネス強化に力を入れていて、とくに夏合宿では、会場のサニアパーク*2 をひたすら走らされる「サニアラン」という練習がキツかったことがいちばん思い出に残っています。

佐藤:僕の代はどちらかといえばフィットネスよりもスキル面の指導が多かったですね。柔道の技術を応用するなどスキル面の指導がすごく新鮮で、それは高校生の今でも活きています。

小椋:中学2年生のときに(佐藤)健次君の学年で練習や試合に出ていたので、同学年よりも長い時間を先輩と過ごしました。先輩達は僕がミスをしても怒らず、プレーしやすい環境を作ってくれました。そうしたサポートや気遣いが印象に残っています。

恩田:僕も小椋君と一緒で、先輩が後輩にすごく優しくて、気軽に話せるような信頼関係を作りやすい雰囲気にしてくれたことに感謝していますし、思い出になっています。また、一つ上の学年でプレーさせてもらえたことがいい経験になっています。常に相手が上の学年だったので、「こわい」という感覚が減っていきました。

中野:僕は在籍中なので「思い出」ではありませんが、確かに、上の学年でプレーすると自分より身体の大きい選手を相手にすることになるので、恐怖心があまりなくなってきました。

彦坂:話を聞いていて少しだけ気になったのだけれど、みんな、先輩のことを「~さん」でなく「~君」と呼んでいる?

全員:はい!

彦坂:ジャニーズみたいだね(笑)。でも、先輩・後輩という上下関係で区別することなく、同じチームメイトとしてリスペクトしながら接することができるのは横ラグの良さでもあるよね。

東北遠征は貴重な財産。

逆に大きなパワーをもらって横浜に帰ってきました。

彦坂:今回の50周年のテーマは『つなぐ』です。「パスをつなぐ」だけでなく「これまでの50年とこれからの50年をつなぐ」「人と人をつなぐ」「人と地域をつなぐ」等々、さまざまな意味で横ラグの50年を象徴するキーワード。この『つなぐ』という言葉で真っ先に思い浮かぶのは「東北遠征」なんだけれど、みんなの東北遠征に対する思いを聞かせてください。

北村:2011年に東日本大震災があって、その年から、復興支援を目的に毎年8月に東北のスクールと交流を持つようになりました。被災した地域の方々と交流する機会があったのは貴重な財産だと思います。

佐藤:僕達が、復興を支援するという立場ではあったけれど、逆にエネルギーをもらいました。岩手のスクールの方々は被災したにもかかわらず本当に前向きで、彼らからパワーをもらって横浜に帰ってきました。試合というよりも交流という面で、自分が経験させてもらった遠征の中では一番印象に残っています。

小椋:小学生のときはバスに乗って被災地をめぐり、語り部*3さんが震災当時の状況を説明してくれました。中学生では釜石鵜住居復興スタジアム*4 のこけら落としで試合をさせてもらいました。まわりをみても小学生のときと中学生のときでは景色も街並みも大きく変わっていました。スタジアムでは、復興後初めて試合を経験させていただき、とても良い経験になりました。

恩田:釜石鵜住居復興スタジアムもそうですが、去年は福島県のJヴィレッジ*5 でも試合をさせてもらいました。実際に、目で見て肌で感じて、福島の復興が進んでいることがわかりました。

中野:被災地に行くことで、横浜では感じられない大変さを、身をもって感じる機会となりました。

彦坂:こうした経験の機会を与えてくれる横ラグは、ラグビーだけでなく人間教育にも力を入れているということがよくわかるね。先日、スクールの創立メンバーであるレジェンドの方々の話を伺う機会があって、そのときも人間教育について話をされていた。「これからもすばらしい人財を輩出してほしい」そういう気持ちを受け継いで、井ノ口さん(編集部注:ジュニア責任者)は東北遠征の実現に漕ぎつけたし、こうした先輩達の想い・魂(スピリット)を受け継いで、君達も後輩達に「つなぐ」ことを期待しています。

ミニにとってジュニアは身近な存在でもあり目標でもある。

学年をこえた交流はあったほうがいい。

彦坂:冒頭で北村君から合宿の話が出ましたが、当時の合宿は小学3年生から中学3年生まで一緒。最終日前日の夜におこなわれる演芸大会も行きのバスも、学年関係なしの縦割り編成で、それこそ上下のつながりが感じられました。

佐藤:僕のころは、人数が多くてミニとジュニア一緒の合宿ができず日程が別々でした。

北村:僕はミニとジュニアが一緒で、演芸大会で優勝して賞品をもらいました。確かシューズ袋だったかな(笑)

小椋:あ、それ俺ももらいました。スパイクケース!

北村:え、じゃあ同じチームだったのかな? 俺が中3で小椋君が中1のときか!

彦坂:当時の夏合宿では、キャンプファイヤーを囲んで演芸大会の出し物を縦割りチームで披露したのだけれど、どのチームも寸劇なんだよね。小学3年生まで含めて配役するからこれが大変なわけ(笑)。

北村:けっきょく上手にまとまらないこともあって、最後はモノマネなど個人技で(笑)。

中野:楽しそうですよね。機会があれば、ミニと一緒の合宿をやりたいですね。

恩田:僕がミニのときは、ジュニアって遠い存在で、ちょっと怖いっていうイメージがありました。でも、こうした合宿や東北遠征などのイベントを通して一緒に活動できれば、もっと身近な存在になるし、それぞれが目標の存在になれると思うんです。学年をこえた交流は、できればあったほうがいいと思います。

「規律を守れるチームが強いんだな」って肌で感じました。

そういう姿が自然と後輩に伝承されて強いチームができていくと思います。

彦坂:恩田君が言うように、GAやミニの後輩達にとって、君達ジュニアは憧れの存在でもあるんだ。みんなは自分が「憧れの存在」である自覚や、GAやミニの後輩たちのお手本・模範であるために心掛けていたことはあるかな?

北村:僕の場合は荷物整理ですね。バッグ並べ*6 はその中でもとくにしっかりやっていて、常に誰かに見られているっていう意識はチームのメンバーみんなにありました。同様に、規律を守ることも大事にしていました。

佐藤:僕は「プレー面で引っ張るだけではなくて、生活面でもまとめる」ということを意識していました。そして、自分が高校生になってこのグラウンドに来たときには、ミニの子たちに応援してくれていることへの感謝を伝えるようにしています。

小椋:北村君や健次君の言うようにグラウンド外の行動も大事だと思います。自分がキャプテンのときもグラウンド外の行動は意識していました。健次君の代はそういったところもしっかりと意識していたから、全国大会で優勝できたのだと思います。そういう「規律を守れるチームが強いんだな」って肌で感じました。そういった姿が自然と後輩に伝承されて強いチームができていくと感じたんです。

恩田:僕も先輩達の後ろ姿を見て規律の大切さを学んできました。僕たちの代は「周りの人達にファンになってもらう」ということを目標として掲げていたので、その目標を達成する手段として、挨拶や規律ある行動など、ふだんの生活面から意識して行動していました。

中野:僕が先輩達に交じっていて感じたのは、バッグ並べや挨拶などを、僕たちの代よりしっかりやっていた点です。これは僕たちの代でも活かさなくてはいけないことなので、今後浸透させていきたいと思っています。

チーム全員とコミュニケーションをとった結果、組織として全員が同じ方向を向くことができました。

彦坂:練習や試合以外のふだんの言動にも気を配る一方で、グラウンドの中でキャプテンとしてチームをまとめるために意識していたことを教えてください。

北村:フィットネスなどのツラい練習がたくさんあったんですが「キャプテンの自分が手を抜いてしまったら、他の誰もついてこない」と思い、「ツラい練習こそ人一倍取り組もう」とキャプテンになったときから決めていました。それだけはがんばってやっていたつもりです。

佐藤:僕はキャプテンとして「プレーで自分が引っ張っていく」っていう意識はそれほどありませんでした。というのも、僕は中学生になってから横ラグに入ったので、小学生のときからプレーしているメンバー達と過ごしてきた時間が短かったんです。だから、キャプテンになることが決まったときに、まずは「チームメイトのこと、それもAチームの人だけではなくて、チーム全員のことを知ろう」と思って、練習の前後や練習の間も、とにかく全員とコミュニケーションを図りました。こうしてチーム全員とコミュニケーションをとった結果、組織として全員が同じ方向を向くことができました。このことが全国大会優勝という結果をもたらしたのだと思います。

小椋:僕は健次君のように組織を引っ張っていく技術はなかったので、とにかく周りに気を配るということや、

北村君の言っていたように練習への姿勢を示すことで引っ張っていけるように意識していました。

恩田:僕は練習が始まる前や合間で、こまめにミーティングの機会をつくることを意識していました。自分の欠点は「自分だけで引っ張っていこう」というように、なんでも自分だけで考えて動いてしまうところだと思っています。だから、試合を重ねていくなかで一部のメンバーだけが発言していくような環境にはしたくなかったので、それ以外のメンバーにも発言してもらえるように考えていました。発言が少ないメンバーでも意見を言いやすい環境作りをして、なるべくみんなでチームの方向性を定めていけるように意識していたんです。

中野:僕は、キツい練習だと自分のことだけでいっぱいいっぱいになってしまうことがあります。キャプテンとしてできる限り周りの仲間を気にして、たとえばキツいときには励ましの言葉をかけてあげるなど、自分だけでなく周りのメンバーのことを第一に考えていこうと思っています。

「引っ張ってもらう側」から「引っ張る側」になって、その違いに最初は難しさを感じていました。

彦坂:確かにキャプテンには責任感というか使命感というか、人一倍がんばっている姿を見せなくてはいけないときがあるよね。それは肉体的にも精神的にも大変なこと。そうしたことを、難しいとかプレッシャーとしてツラい、と感じたことはある?

北村:プレッシャーはありましたが、それほどツラいと思ったことはなかったですね。高校でもキャプテンを務め、そのときはツラいと感じることはありましたが、横ラグではありませんでした。チームメイトみんな仲が良かったからでしょうか。

佐藤:難しいとか大変と感じたことはありませんでした。高校はキャプテンになってまだ間もないのでわからないですが、1~2年生のころと比べて大きく意識が変わったこともありません。ただ、キャプテンになったからこそ違う景色が見られたというか、キャプテンになったからこそ、チームを違った視点で見るようになったという意識はあります。たとえば「次はこうしてみたらどうなるだろう?」のような好奇心のほうが大きくて、「大変」「ツラい」というよりむしろ「楽しい」「おもしろい」という気持ちのほうが強いです。

小椋:僕はツラかったです。横ラグでも選抜でもキャプテンに任命されて、最初は意気込んでいたのですが、やっているうちに「自分には向いていないな…」と感じるようになりました。とにかく周りに気に配ることを意識していたのですが、今にして思うと、自分しか見えていなかった…。キャプテンであることを意識し過ぎてしまって、自分本来のプレーがうまく発揮できず方向性がわからなくなって悩んだ時期もありました。いま高校でプレーしていて「自分はキャプテンの器ではないな」と改めて感じています。試合をしていても先輩に引っ張ってもらっているほうが自分には合っているような気がしています。

恩田:僕は中学2年生のころから上の学年でプレーさせてもらっていて、3年生になって自分がキャプテンになり、「引っ張ってもらう側」から「引っ張る側」になって、その違いに最初は難しさを感じていました。僕もキャプテンには向いていなかったのではないかと思っていました。優しすぎるというかメンバーに強く言えないところがありました。それがジュニアでの試合結果に出てしまったのではないかと反省しています。これから高校に進学し、「キャプテンとは何か」を改めて考えてみたいと思っています。

彦坂:キャプテンって傍からみたら「頼りがいがあって決断力もある」と思われがちで華やかに見えるかもしれない。でも実際のところ、悩んだり苦しんだり、大変なことも多いよね。だけれども、佐藤君が言うように「楽しさ」や「やりがい」のほうがもっと多い。チームが一つにまとまって試合に勝ったり…いや、勝ち負けにかかわらず、いい形でプレーできたとき、チームメイトや応援してくれる人達の笑顔を見ることができたとき、『キャプテンでよかったなぁ』って思えるんじゃないかな。それに、チームメイトやコーチ達、サポートしてくれるすべての人達の存在・ありがたさも、誰よりも強く実感できるはず。

全員:(力強くうなずく)

キャプテン達の話は尽きることなく続きます。コーチに叱られたこと(?)、コーチ・保護者・関係者の方々への感謝。そして、現役キャプテン・中野君へのアドバイスと、GA・ミニの後輩達へのメッセージ。

*1 ストレングス・アンド・コンディショニングのこと。横浜ラグビースクールがいち早く取り入れた練習メソッドで、パフォーマンスを最高にするために、単なる筋力だけでなくパワー、筋持久力、スピード、バランス、コーディネーションなどの筋肉の働きが関係するすべての体力要素に必要とされる能力を向上させながら、柔軟性や全身持久力などすべての要素をトレーニングし、身体的な準備を整えること。また、そのトレーニングのこと。

*2 横ラグの合宿地、菅平高原(長野県上田市)にある総合運動公園。ジュニアは毎年、ここで開催されるジャンボリー大会に出場している。ラグビーW杯直前にはイタリア代表が合宿していた。

*3 一般には、語り伝えられてきた昔話や民話、歴史などを人々に語り継いでいる人を指すが、ここではとくに、実際に被災したときの状況・情景や、復興に至るまでの歴史などを語り聞かせながら、震災から学んだこと、教訓になったことを教え伝えてくれる人。

*4 岩手県釜石市の釜石鵜住居(うのすまい)運動公園にあるスタジアム。東日本大震災で発生した津波で甚大な被害を受けた地域。津波に流された鵜住居小学校や釜石東中学校の跡地に建設された。

*5 Jヴィレッジ(ジェイ・ヴィレッジ)は、福島県浜通り南部、双葉郡楢葉町・広野町に跨がって立地するスポーツトレーニング施設。1997年開設。福島第一原子力発電所事故に伴い、  2011年3月15日から2013年6月30日までスポーツ施設としては全面閉鎖し、国が管理する原発事故の対応拠点となっていた。以後もトレーニング施設としては活動閉鎖されていたが、2018年7月28日より部分的に再開。同年9月8日には新しい全天候型練習場の利用が始まった。福島県の復興のシンボルともなっている。 *6 練習や試合会場でバッグをきれいに並べることに始まって、あらゆる行動でチーム全体としての規律性を高めるため、まず最初におこなうこと。

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北村 瞬太郎

2016年度キャプテン。小学2年生で入校し、2017年3月に卒業。国学院栃木高校~立命館大学に進学。ジュニアからキャプテンを務める。ポジションはSH(スクラムハーフ)。

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恩田 優一

2019年度キャプテン。小学1年生で入校し、2020年3月に卒業。慶應義塾高校に進学。小学3年生からキャプテンを務める。ポジションはCTB(センター)。

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小椋 健介

2018年度キャプテン。小学5年生で入校し、2019年3月に卒業。桐蔭学園に進学。ジュニアからキャプテンを務める。ポジションはLO(ロック)。

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中野 誠章

2020年度キャプテン。小学1年生で入校。2020年4月からジュニアのキャプテンに。ポジションはLO(ロック)またはCTB(センター)。

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佐藤 健次

2017年度キャプテン。中学1年生で入校し、2018年3月に卒業。桐蔭学園に進学し、同校ラグビー部でもキャプテンに。ポジションはNo.8(ナンバーエイト)。